2018-08-03

『未来のミライ』あまりにも奇妙すぎる世界観をツッコミ分析(ネタバレあり)

身勝手の極意。どうも、こんにちは。McFly ( @HI-ENDBLOG ) です。
兄弟がいないせいか、人間ができていないせいか子供を目の前にするとそのパワーに圧倒され、なぜか子供に対して敬語になってしまうほど扱いに慣れていません。
一昔前までは自分も同じ子供だったはずなのですが、はて、子供の時ってどんな視点で物を見ていたのか。忘れてしまうものですよねぇ。
というわけで今回はそんな子供心を思い出させてくれたと同時に、あまりにも奇妙すぎる世界観で逆に名作を生み出してしまったと自分の中で話題の細田守監督作品『未来のミライ』をご紹介。
テーマには大感動、内容には酷評とHI-ENDでは珍しい内容となっております。
※下記、【ガッツリ感想】には映画本編の「ネタバレ」が含まれます。ご注意ください。

評価

満足度★4(星10段階評価)
:劇場鑑賞

あっさり感想

・まず観る側が4歳の男の子目線で終始描かれる物語に乗れるか逸れるかで大きく左右。
・2つの世界を結ぶ奇妙で曖昧な境界線をすみ分けながら物語を上手く理解できるかどうか。
・「些細な選択」が「偉大なる未来」へと導く大きな価値を秘めているという尊さの語りには大満足。

ガッツリ感想

■ザックリと言ってしまえば

4歳の男の子「くんちゃん」が、産まれたての妹「ミライちゃん」をお迎えする所から展開する物語。
これまで家族の愛情を一身に受けてきた1人息子「くんちゃん」が、妹の登場により突然の自立を余儀無くされたり、兄として妹のお手本となれるような行動を求められ、一気に家族の愛が妹に集約された(気がする)事に対する「嫉妬心」や「甘え」によって『僕も構って欲しいんだぞぉーっ!!!ジョジョォォオオオ!!』といった具合に感情が大爆発。

諦めの境地から一気に子供らしく”身勝手の極意”へと発展したくんちゃんが自宅の中庭に飛び出すと、突然「不思議な世界」に導かれ、
その世界ではなぜか擬人化した愛犬と語り合えたり、未来からやってきた妹のミライちゃんから頼まれごとを受けたり、「家族の物語」に繋がる過去や未来へタイムスリップしたり奇妙な体験が待ち受ける。
そんな不思議な世界で触れ合った人々や時間を通じて、幼いくんちゃんが大きく成長してゆくという物語。

■映画のテーマにはとてつもなく感動

本作の最大のテーマとして、過去の「些細な選択」が自分の生命に繋がっていたり、愛犬との出会いに繋がっていたりと、
何か1つでも過去の選択が異なれば「今は存在していなかった」のかもと、壮大で素晴らしい時間の存在をテーマを語ります。

正直このテーマに関して言えば、めちゃくちゃ大好きです。

多くの人が考えたことがあるはずなんですよね。
自分のおじいちゃんとおばあちゃんにも子供の頃があって、互いの惹かれ合う出会いがあって、どちらかがどちらかを口説いて、そういう自分でも想像出来ない過去の選択の連鎖が奇跡的に今の自分に繋がっているんだよなぁとなんとなくでも。

このテーマがとてつもなく心を掴んだ上に涙まで流れたのに、映画を受け止めきれない自分がいるのは何故なんだろう。
どうしてなんだ!!俺の心死んでるのか!?
果たしてその真相は!?

素晴らしいのに問題作。
何が僕をそんな気持ちにさせたのか?
見た目は子供。やる事大人。
ウィークポイントはどこにある?
それでは参りましょう。
その時、歴史は動いた。

■主人公の幼さ

予告編の時から感じていた懸念点でしたが、
映画の主役を張るにはやはりあまりにも主人公が幼すぎたという部分はかなりのウィークポイントでした。
4歳の主人公ってもしかして映画史の中でも最年少なのでは?(あ、ベイビートークは0歳か。)
映画の主役には決断力や勇気そして成長は欠かせません。
4歳の男の子にそれが全く備わってないとは言いませんが、このくらいの歳の子の冒険って「はじめてのおつかい」くらいが背の山で、
最大の冒険だと思うんですよ。

お母さんに『お米1kg買って来てくれる?』と頼まれて、
近所の米屋のしわくちゃのお婆ちゃんに「え?何?何が欲しいの?あぁん?」と凄まれてビビっちゃって全然理解してくれない年寄りのせいで『お米5kg』も買わされちゃって、帰り道に重くて泣きながら荷物引きずって。
でもって袋が破れちゃって米が溢れちゃって、家に帰った時に500gぐらいになっちゃって、でもお母さんに「良くやった!」と笑顔で出迎えられてそのお米で作ってもらったおにぎりが美味い!!みたいなドラマが『精一杯の独り立ち』だと思うんですよ。

でも本作の主人公くんちゃんは、普段は身勝手で自由奔放で元気にあふれている子供らしい子供なのですが、不思議の世界では一変。
犬が人の姿で喋る事をすんなりと受け入れ、突如現れたJCを瞬時に未来からやって来た妹だと理解したり、雛人形を元どおり綺麗に片付けをしたり、至近距離で飛行機のエンジンが爆音で稼働しようが泣きもしないというスーパーボーイ。
こんなのね、その辺の4歳、泣きますよ。
1人でこんなへんぴな空間に突然投げ出されたら。

難なく「不思議の世界」の人々との触れ合いから「学び」を得る利口なくんちゃんを眺めながら、
最近の4歳って実際はここまでしっかり人間が出来上がっているんだろうか、僕の記憶が古いだけかしらと、劇場内で落ち着きなく映画を見ているくんちゃんくらいの子供を見つけ、スクリーンの中の4歳児の在り方に困惑。
ちなみに映画「トトロ」でお馴染みのメイちゃんも、くんちゃんと同じく4歳の女の子でした。

この作品に関していえば「4歳」と言う幼さと物語に必要な成熟したキャラクターのアンバランスが奇妙な構図に思えたのです。

■不思議な世界へのトリガーの弱さ

今作でくんちゃんが不思議の世界へトリップするトリガーは、
・両親の愛が自分に向いていないと感じた時
・退屈だと感じた時
・絶望した時
「赤ちゃん返り」の男の子が「なんでどうして」のフラストレーションの絶頂を迎え、この3つの条件を満たして中庭に飛び出た時、そのトリップが発動します。
このトリガーが個人的には『いやぁ、、これは弱いだろ』というのが正直な感想でした。

この中庭には、大きな木が1本育っているのですが、恐らくこの木が歴史を結ぶインデックスの役割を示すメタファーなのだとは思うのですが、
トリップする世界があまりにも幻想的で広大な世界観のため、その程度の木が植えられているだけでは「きっかけ」と「世界観」のバランスが合わないのです。(トトロが生み出す森のような木ならさすがに説得力があるのですが。)
また彼の中庭に対する思い入れを感じる描写も特にありません。非常にアンバランス。

これくらいのきっかけはどの男の子にも、女の子にもあります。
これで発動できる幻想といえば「頭に火山が現れて噴火」とか「溢れた涙が部屋中に溢れる」とかその程度が丁度いいバランスのように思えます。
『この男の子に大切な何かを伝えてあげたい』という物語側の導きが非常に薄く感じる。

果たしてこの不思議な世界はあっち側からくんちゃんを包み込んできた世界なのか、それともくんちゃんの中から生まれた世界なのか。

そういえば前作「バケモノの子」でもクライマックスで、人間が踏み入ることの出来ないバケモノの世界に易々と人間である楓ちゃんが「来ちゃった!」感覚で入って来た事に愕然とした事を思い出しますが、ベジータ風に表現すれば「まるで異世界への旅立ちのバーゲンセールだな」と評ざるを得ません。

■不思議な世界の設定の曖昧さ

またトリガーの弱さに引き続き、くんちゃんがトリップする「不思議の世界」の設定の曖昧さにもモヤモヤが現れます。
このモヤモヤを『トリップ七不思議』と題し、列挙してみましょう。

【トリップ七不思議】
その1》擬人化した愛犬ゆっこの尻尾を引き抜き、その尻尾をお尻に取り付けたくんちゃんの姿が、現実世界の住人からは「愛犬ゆっこ」に見えている。
その2》未来のミライちゃんが現れている間、現実世界の赤ちゃんミライちゃんは姿を消している(らしい)。
その3》平然とタイムスリップして来たミライちゃん側はどのように過去にアクセスしてきたのか。
その4》不思議の世界に現れている擬人犬ゆっこと未来のミライちゃんは、現実世界の住人にもその姿が見えてしまう(可能性のある)存在である。
その5》未来のミライちゃんを認識させるためだけでその後、特に物語には深く絡んで来ないミライちゃんの右手の痣。
その6》両親も語った事の無いリアルな過去へのトリップ体験から推察されるくんちゃんガチタイムスリップ説。
その7》全てはくんちゃんの妄想なのか、現実なのか、夏の暑さがそうさせたのか。

厄介です。かなり厄介で解釈を観客に丸投げにし、去って行きます。
個人的には1と2に関してはダントツの疑問符でした。

擬人ゆっこが尻尾を引き抜かれて、それをお尻につけて走り回るくんちゃんの姿が両親には愛犬ゆっこに見えている?
ん?ということは、尻尾を抜かれ窓際で戸惑っているゆっこは一体どうなっているんだ。。。

はたまた赤ちゃんミライちゃんの姿が消えたと思ったら突然未来のミライちゃんが現れただと、、、(擬人ゆっこ談)
赤ちゃんミライちゃんと未来ミライちゃんは同時に存在する事が不可の関係性?どゆこと??

くんちゃんがトリップするたびに頭の中は疑問符だらけに。
頼む!!くんちゃん!!もうトリップを止めてくれ!!こちらがどうにかなりそうだ!!

トリップする事で歪められる現実の世界。
実は怪談ものだったのか、この家族が相当危ない薬をキメているか、
中途半端に現実と不思議の世界観が混合されて描かれるためにその境界が曖昧に。
もはや観ている側が理解不能の境地へトリップさせられてしまう。

結局前述したことに繋がるのですが、異世界へのトリップのキッカケが弱いが為に、混ぜるな危険状態に。
有毒ガス出ちゃってる。

ミライちゃん、タイムスリップまでして片付けて欲しかったひな壇って一体未来でどんな悲惨な出来事があったんだい。。。
(初恋の相手と上手く行きたいがためだけに時間旅行して来たとか本気で言ってるのか…)
「いやいや、これをきっかけに好きくないベビーミライちゃんを想えるきっかけになるでしょう?」と言われれば、
「うん、だけど、そのためにJCが未来からひな壇片付けにきただけって地味じゃない?」と反射的に返したい。

この項目に関しては三日三晩語れるほどのツッコミ要素満載。
ネバーエンディングストーリー。

■異世界へのトリップを全て取り除いて見てみよう!

ピクサー作品「インサイド・ヘッド」は脳内のメカニズムにキャラクター性を持たせ、
喜怒哀楽それぞれの感情たちが普段どのような活躍を果たしてくれているのかをコミカルに見せてくれる非常に魅力的な作品です。

この作品では「頭の中の世界の物語」を取り除くと、
『引越しが嫌で家出した女の子がバスの中で寂しくなって家族の元に引き返す』と言う非常にシンプルで別に映画にするにはドラマも何も無いお話でしたが、
現実にはシンプルな出来事にも関わらず、頭の中では複雑で壮大物語が展開されているんだと言う対比が素晴らしすぎる感動名作でした。

「未来のミライ」では不思議な世界でも体験を通じて急成長するくんちゃんですが、
両親はくんちゃんに何が起き、何を見て来たのかは全く知りません。
ではこの物語を両親目線で見てみるとどのような展開になるのか?
一度タイムラインで見てみましょう。

【両親目線の物語】
・ベイビーミライちゃんの世話で大変な中、相手にされない事に嫌気がさしたくんちゃんがおもちゃでベイビーミライちゃんを殴ってしまう。それを激怒したところ、くんちゃんを全力で泣かせてしまった。(その後詳細不明)
・お父さんが仕事に夢中でくんちゃんの世話を完全にないがしろにしていたのにも関わらず雛人形が完璧に片付いていた。(奇妙体験。詳細不明)
・おもちゃを片付けないくんちゃんを怒ったら更に散らかされて全力で泣いた。(その後詳細不明)
・自転車に乗れない事を悔しがるくんちゃんが中庭で泣きだし、その後ひいおじいちゃんの写真を指差して「お父さん」と言い出す。(奇妙体験)
・くんちゃんが急に自転車に1人で乗ると言い出し、補助輪も父親の補助も無しで単独運転に見事成功。(感動)
・お出かけ前に黄色のズボンを履きたいとワガママを言うくんちゃんを放ったらかしにしたら、家出すると叫んでいたのに急に素直な子になってた。(ラッキー)

子育てが大変だと言うリアルな描写は描かれていましたし、
くんちゃんの4歳児らしい言い分や態度も本当にリアルで子育ての大変さを疑似体験したような気持ちにさせてくれました。

ただ、映画で描かれている部分だけを抜粋して両親目線でこの物語を見てみると、
『赤ちゃん返りした息子を放置したら急に立派な子になった話』みたいな新書感と、
『赤ちゃん返りした息子を放置したら奇妙な事を言い出した話』みたいな恐怖体験の混ぜ物のような微妙に複雑な構造に。
ファンタジーとリアルな部分の盛り付けがいずれもコッテリすぎるが故に生じる胃もたれ感。

現実部分では一見「親はなくとも子は育つ」をそのまま体現するような成長劇ですが、
この両親、くんちゃんの成長の瞬間を自転車乗れたところ以外は全然見ていないんですよね。
最後なんか「家出する!」と叫んでいたくんちゃんを放っておいて何してるんだろうと思ったら、
夫婦で仲良く車にキャンプの荷物を詰め込んでいいたのでビックリしました。笑

「くんちゃんはミライちゃんのお兄ちゃんなんだ」とようやく自覚する一番大事な成長の瞬間に、
子供放置して荷物詰めながら夫婦でお互い褒めあってるってどんな映画だよと、ひっくり返りました。

子育ても慣れてくると、子供の家出宣言も受け流せる心の強さを得れるのでしょうか。
個人的にはこれがこの作品の中で一番寂しく感じる部分でした。

とにかく、不思議の世界のくんちゃんの体験を取り除いて見つめるてみても、やはりこの物語には奇妙な違和感が拭いきれません。
くんちゃんの成長に現実世界の外的要因がほぼ無いために、やはりあの不思議の世界は真実の産物なのかと前述の疑問に逆戻りしてしまい、疑問のループ構造に観ているこちらが取り残されてしまいます。
世にも不思議なアメージング・ストーリー。

□まとめ

「物語として非常に奇妙」であって、くんちゃんは本当に体験したのか?もしくは妄想の世界だったのか?と言う決着をつけず、
映画の中でとても曖昧な次元で彼が成長してしまい、この映画の中での一番の成長に両親が立ち会えていないという切ない描写の一方で、
描かれるアニメーションは超一流の表現力で煌びやか、壮大な人生の素晴らしいテーマを組み込みながら「感動風」に収束させるという
中々厄介なシナリオと演出でまとめられた非常に巧妙な98分。

果たして、くんちゃんがお兄ちゃんの自覚を持つ事や気に入らない色のズボンでも嫌がらずに履けるようになる事に対して、
ここまでの壮大な物語は必要だったのだろうか。あまりにも理想主義的すぎる展開に、これは飲まれるとヤバイと危機感さえ感じてしまうほどでした。

ぼんやりとした一夏の不思議な出来事のような感覚に陥らせてくれる迷作。
この作品を「観客の想像力で補完してください」と言うのであれば、「さすがに無茶でしょう」と言わざるを得ない作品でした。

1つわがままを言うのであれば、子供の成長を見届けた両親からの「良くやった!」と言う心強い一言が欲しかった。
とか何とか議論しながら映画を観て、「面白い」「面白くない」の一言で済ますことは良くないという価値観には改めて気付かせてくれる作品でしたね。

こんな人にオススメ

・プレママさん
・プレパパさん
・親の有り難みを忘れがちな反抗期の方々

作品詳細

映画「未来のミライ」公式サイト
Filmarks「未来のミライ」リンク
2018年07月 20日上映(2018年製作)/日本/上映時間;98分/ジャンル:アニメーション

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