2018-02-15

『タンジェリン』全編スマホ撮影に見た可能性(ネタバレなし)

tangerine

どうも、こんにちは。McFly ( @HI-ENDBLOG ) です。
本日はTSUTAYAで借りてきました全編スマホ撮影映画「タンジェリン」の鑑賞後レビューです。スマホじゃなくても良くね?

あらすじ

太陽が照りつけるロサンゼルスのクリスマス・イブ。
街角のドーナツショップで1個のドーナツを分け合うトランスジェンダーの二人。28日間の服役を終え、出所間もない娼婦シンディは、自分の留守中に恋人が浮気したと聞きブチ切れる。
歌手を夢見る同業のアレクサンドラはそんな親友シンディをなだめつつも、その夜に小さなクラブで歌う自分のライブの事で頭がいっぱい。
さらに、彼女たちの仕事場の界隈を流すアルメニア人移民のタクシー運転手、ラズミックも巻き込んで、それぞれのカオティックな1日がけたたましく幕を開ける!
映画「タンジェリン」公式ホームページ

評価

満足度 ★ 5 (星10段階評価)
:DVD鑑賞

あっさり感想

・ノンストップブチギレバイオレンストランスジェンダームービー!
・カオスな社会構造を舞台に「崩壊」と「再生」を繰り返す生命の森のような規格外の力強さに疲弊。
・全編iphoneによる撮影が売りであり、同時にネック。

ガッツリ批評

LA郊外のドーナツショップで出所ほやほやのトランスジェンダー「シンディ(通称:シンデレラ)」が拘留中に彼氏が浮気をしたという噂を耳にし、どえらい激昂するシーンから始まる。
《ノンストップブチギレバイオレンストランスジェンダームービー》

この映画の肝は爽快なまでの彼女のぶちギレ様。
話聞かない。周り見えない。すぐ手を出す。
あぁ、やっぱりこういうキレ方する人をなだめる手段て無いんだなぁーっと諦めさせてくれます。
鼻から怒りのピーク。常に沸点。誰にでも喧嘩腰。
これLGBTとか男女とか全く関係なく、冷静さを失う事がいかに周囲や自分にも悪影響を及ぼすのかを客観的に教えてくれます。(映画的には面白いけど実際には本当に関わりになりたくない…)

より期待値を底上げしてくれるのもこの主役のトランスジェンダーの2人組。あまりにも自然な「口汚いストレートな会話」や醸し出される「アングラ社会」の空気感。ドキュメンタリーにも見えてしまうライブ感構造。

ただ、まるで実際の「出来事」を目撃しているようなリアルな感覚で物語が展開する中、逆に浮気相手とされる白人金髪女 ”D”の正体が徐々に明らかになるという「ドラマ的な部分」に必要な牽引力が常にアッパーな「激昂し続けるテンション」で展開されるため、見ているこちらの体力が持たなくなり、やや疲弊してしまう。(申し訳ないけど彼女自身に同情するに足る資質が無いんだよなぁ..)
とはいえたった1つのキーワードを元に真相を究明する操作能力はコナン君越えの大胆さ。恐れ入ります。

シナリオ構造はとても巧妙で、物語のキーパーソンとなる
 ・トランスジェンダー娼婦のシンディ&アレクサンドラ
 ・浮気相手の白人金髪女”D”
 ・偏った性欲に溺れるTAXIドライバー
 ・裏社会の男チェスター
という何ともカオスなメンツを伏線上で交錯させて行きつつ、物語のピークに見事な「エクスプロージョン」を見せてくれます。邦題が『地獄のドーナツショップ』でも許せると思えたLAの恐怖スポットシーンは必見です。

この映画が社会に対する啓発なのか、裏社会ライフスタイルに対するポジティブな発信なのか、自己同一性や性同一性に対する多様な価値感に対する捉え方の提唱なのか、一体何なのか。実態は掴めぬままでしたが、とにかく熱に帯びた非日常の日常の凝縮に頭を打たれたような感覚に陥りました。(学生時代に観ていたら何かが変わっていたような気がする)

また良くも悪くも「全編iphoneによる撮影」がこの作品に宿る天使となり、悪魔となりました。このコピーこそがこの映画と引き合わせてくれたと言っても過言ではない強烈な文句である事は間違いありません。

ただ撮影手法と作品テーマには何か密接な関係値や、その表現を選択した事が何らかの形で作品内で消化される事を望んでしまいます。その点ではこの撮影法が取られた意味合いが物語上では非常に薄かった。

例えば、隕石に接触した事がきっかけで超能力に目覚めてしまう少年たちの物語を描く『クロニクル』では、主人公たちが使う「ハンディカムの映像」を通してその物語をまるで「目撃している」かのような錯覚を。
140分「全編1カット」で撮られた『ヴィクトリア』は、深夜のベルリンの夜明けまでのリアルタイムな出来事を少女と「寄り添うように」一繋ぎで描く事で非常に機能的で作品と密接した意味ある演出で感動を生みました。

「全編iphoneで撮影」というキャッチがこの映画の非常に強い売りコピーでありながら、同時に鑑賞後のウィークポイントに。

とはいえ、iphone 5s 3台でどんな映画が出来るのか。
この作品が提唱したのは「撮れない」時代は終わり、「撮れる」時代を既に迎えているという事かと。
言い訳できないこのご時世に、映画界に新たな希望が誕生する事を心待ちにしたくなるという意味でも熱を帯びた作品でした。

こんな人にオススメ

・映画を撮りたいと思っている熱意ある若者の皆様
・自分の性癖に素直になり過ぎるとどんな結末を迎えるのかをシュミレーションしたい方
・裏社会見学をご希望の勉強熱心な方

作品詳細

映画「タンジェリン」公式サイト
Filmarks映画「タンジェリン」リンク
2017年1月28上映(2015年製作) / 製作国:アメリカ / 上映時間:88分 / ジャンル:ドラマ

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です