2018-10-30

【出産立ち会いの記録】第4話「まだ遠い分娩室への道」

出産立ち会い鼻からスイカが出るような痛みとは新古今和歌集から伝えられる出産の痛みの有名な例えである(違うけど)。
お腹もさすってと奥さんに言われ、大きく張り出した腹部に恐る恐る手を重ねてみた。繋がれたら心音計で示される陣痛が一番のピークに差し掛かった時に触れたお腹の張り様に思わずギョッとしてしまった。

内側から張り裂けそうや…

「北斗の拳」でケンシロウが一子相伝した北斗神拳は内側からの破壊により敵を葬る暗殺拳。僕が触れた奥さんのお腹は今すぐにでも張り裂けそうなほど内側からの強い力で膨れ上がっており、まさにその北斗神拳で突かれた経絡秘孔が膨れ上がった「ひ・で・ぶ!」の「で」の状況が無限に続いているような状態だった。

こんな話は聞いた事も無いがその時僕が素直に感じた事は「お腹が破れるんじゃないか」という真剣な不安だった。想像を遥かに凌駕する程の苦しみに耐え続けていたのかと気が遠くなりそうになる。いつ産まれてくるのと奥さんの口から悲痛な叫び声が上がった。時刻は18時に差し掛かり、陣痛が始まって14時間を経過、4本目の点滴が繋がれた。

これまで付き添ってくれた看護師さんたちは夜勤シフトのチームへとシフトし、そのタイミングで再び診察の時間を迎えた。子宮口は7センチまで拡がり、産道も初産妊婦の平均的なペースでお産の準備が整ってきており非常に順調ですとの事でまた一つ不安が解消された。

ここから先は破水の確認と赤ちゃんも降りて来てくれなければいけませんとの事でベッドから体制を起こしアクティブチェアと向かい合う。本当の峠はここからとなった。

時間の経過と共に体力は消耗していくのに痛みは肥大化するという反比例の苦しみ。時折口に出来た1カケラのプリンや、水分を補えたことは幸いな事だった。心の支えとなったのは「もうすぐ赤ちゃんに会えるんんだ」という大きな希望だった。

早く会いたい。その一心で2人して陣痛の苦しみと向き合った。

ここからの数時間はボクの人生で最も長く感じた数時間だったと思う。陣痛の重みによる悲痛な叫びは病室を抜けて産科病棟中に響き渡っていた。看護師さんの見様見真似で奥さんの呼吸が乱れぬように吸って吐いてを隣でサポートし続けた。半日以上個室に入り浸り、深い呼吸を続けていると感覚が徐々にボヤけてくる。健康体の自分がここまでフラフラになっているのを思うと、胃の中が空っぽの状態の奥さんの体力も精神状態も心配になり始める。

気付けば時刻は22時30分に差し掛かっていた。

分娩室にて診察をという事で、病室から僅か数メートル離れた分娩室への移動が始まった。

自然分娩に至っては妊婦は基本的に「歩いて」の移動を病院から指示される。産前教室で聞いていた話ではあったが、既に立ち上がる事すらままならない奥さんにとってこの移動が富士山登山よりも過酷な道のりだったと思う。ここから先は一旦旦那さんは病室にて待機をという事で、心の中で「ガンバレッ!!」と叫びながら看護師さんに補助され分娩室へと向かう奥さんを見送る。

午前中に連絡をしていたそれぞれの実家に状況をLINEで報告を入れながら診察の結果を待つ。

そのまま20分ほど時間が経過し、病室に戻って来た看護師さんに「旦那さん、それではいよいよ出番ですので奥さんの飲み物とタオルを持って分娩室に移動いただけますか?」と声をかけられる。明朝までかかるかもしれないと覚悟していた所に突然の知らせ。ソファから飛び上がり、大急ぎでペットボトルとタオルを手に取り看護師さんの誘導に従う。

陣痛開始から19時間が経過。ついに分娩室の扉を潜り抜けた。

【出産立ち会いの記録】第2話「入院、そして立ち会いがスタート」

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