2018-10-29

【出産立ち会いの記録】第3話「お産はフルマラソン並み?」

出産立ち会い体力を付けるために何か少しでも口に入れてくれたらと昼食を持ってきてくれた看護師さんが、茶碗に盛られた白米を少し取り、ひと口サイズのハート型のおにぎりにしてくれて持って来てくれた。おにぎりに人の優しさを感じたのはいつぶりだろうか。

産前教室ではお産の心構えとして、陣痛が訪れた際にはそのまま入院になった場合、出産を終えるまでお風呂に入れないという事で自宅にて軽いシャワーとエネルギー補充のための食事を摂る事が指示されていた。

その時はなるほどなるほどとメモを取っていたが、いざ陣痛を迎えると「動けない」「食べれない」「何も出来ない」。教科書の挿絵ではにっこり笑顔でシャワーを浴び、ご飯を食べながらせっせと入院準備を整える妊婦の姿が描かれているが、これが全くのフィクションである事実を突きつけられる。完全なる「無理問答」が続く。

辛さと向き合いながらやっとのことでウィダーインゼリーを喉へ通してもらうも、込み上げる吐き気を抑えきれず逆に胃を空っぽにしてしまった。止む終えず点滴にて血中に栄養素を補う形となるも、分娩室に移るまで可能な限り口からの栄養と水分の補給をサポートしてあげて下さいねと看護師さんからアドバイスを頂く。結局出された昼食にもおにぎりにも手をつけられずのまま、旦那さんも付き添う体力が必要なので本当は駄目ですけどこの昼食食べて下さいねと看護師さんに気遣いを頂いてしまった。

奥さんと同じく朝食を食べずに付き添って来たが、苦しむ奥さんを前に食事に手を出す事が情けないようで気が引けた。このまま手を付けずに下げてもらおうかとも思ったが、空腹のまま付き添って旦那さんが倒れてもここでは診れないですよと気丈な看護師さんに背中を押された事と、わずか1時間のサポートにも関わらず大波で押し寄せていた空腹感に抗えない食欲の狭間で揺れた。申し訳ない思いで一気に平らげた昼食だった。一食すら我慢出来ない自分の腹持ちの弱さたるや惨めな光景だったように思う。

ただこの後繰り広げられることになる壮絶な苦しみの峠を越えた後に振り返ると、この時僕は自分を卑屈に思いながらもこの昼ごはんを代わりに食べていなかったら確実に倒れていたと思う。長期戦を付きっ切りで居ようと思う世の男性には長期戦を見越してしっかりと食事を摂ることをオススメしたい。食べろ!

お産はフルマラソンを完走するほどの体力が必要と言われるが、本格的な陣痛が訪れてから既にフルマラソンなら市民ランナーも完走を終える程の時間が経過していた。更に異常な悪寒を訴えだした奥さんに毛布や保温ウォーマー、バケツの足湯など次々と身体を温めるためのあれやこれやが導入される。午後3時、陣痛開始から11時間が経過。

ここまでに僕が出来たことと言えば、
・背中をさする
・痛みでパニックにならないよう呼吸を誘導する
・時折飲み物をストローで口元に運ぶ
これくらいだ。

途中診察が入り、子宮口が約10センチまで開く事と赤ちゃんの頭が産道の入り口付近まで下がって来たことが確認出来れば分娩室に移れますよとの事で、現状5センチほど開いて来ていますよと伝えられた。破水はまだ無かった。

えっ、これだけ悲鳴をあげ続けて陣痛も相当狭まっているにも関わらずやっと5センチなのかと驚いたと同時に赤ちゃんもまだ下がって来ていないのでと伝えられ、ここで初めて奥さんの体力が真剣に持つのかどうか心配になる。RPGなら完全にHPが赤色に、MPは使い果たして回復呪文も回復薬も使えないこの状況でまだまだラスボス戦は愚か中ボス戦手前。

アクティブチェアでの前傾姿勢についに疲弊してしまった奥さんはここから数時間ベッドに横になる姿勢でこの後数時間陣痛の痛みに苦しめられる事になる。

折り返した道のりは更なる茨の道となった。

後日談

ボクがお昼ご飯をコソッとガツっと食べていた事すら奥さんは気付いていなかったようでそれどころでは無かったらしい。
加えてカラコンも外されていたらしく周囲も見えていなかったそうな。
これを聞いて心が救われた。

【出産立ち会いの記録】第4話「まだ遠い分娩室への道」

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です