2018-03-05

『15時17分、パリ行き』自分自身を肯定する強さに正義有り

15時17分、パリ行きどうも、こんにちは。McFly ( @HI-ENDBLOG ) です。
本日は3月1日より公開されたクリント・イーストウッド監督最新作「15時17分、パリ行き」についてのレビューです。

こんな感じでまとめてます➡️

評価

満足度 ★8 (星10段階評価)
:劇場鑑賞

あっさり感想

・やっぱり一筋縄に英雄を描かないクリント印のイーストウッド作品
・構築化された教育社会の中で摘まれる「個」の存在にスポットが当てられる社会派作品
・諦めなくて良いんだぞって事をとにかく応援してくれる弱き者のための映画

ガッツリ批評

『テロを阻止した3人の若者たちはアメリカが産んだヒーローなのか?』

2015年、フランスからベルギー、オランダ、ドイツを結ぶタリス鉄道の車内で起きたイスラーム過激派の男が起こした銃乱射事件を描く本作。(wiki参照
この「タリス銃乱射事件」のみを忠実に描ききった作品だったとしても題材としては充分に成り立っただろう。

ただ本作には彼らの迅速な制圧行為を賞賛し、世界中に潜む無慈悲なテロ行為に対して反旗を掲げるだけの「米国メディア主義的な英雄論」の切り口では納めない。

それは恐らく、この事件の中で果敢にテロリストに立ち向かった3人の青年たちへの取材の中で、彼らの正義感は「米国が育んだ」のではなく、彼ら自身が不遇な境遇の中で強く生きる決断を選択し続けてきたからこそ生まれたものだという事が明らかになったからだと推測する。(あくまで推測だけど)

要するに「やっぱりクリントイーストウッド監督が撮るからには一筋縄にな描かれないヒューマンドラマがある」という事だ。

ほぼ大半が彼らの幼少期について描かれ、彼らがいかにして『英雄』になれたかというプロセスを掘り下げていくと、現在の学校教育に対する大きな疑問点が浮かび上がる。

日本では2005年に施行された発達障害者支援法の登場から特に日常でも耳にする事になり始める「発達障害」というフレーズ。
テロ行為による被害拡大を食い止め、勇敢に戦った彼らは幼少期、米国の教育指導要領の元では「注意欠陥障害(ADD)」であると一部の教師から判断されていたのである。

注意欠陥障害とは現在では「注意欠陥/多動性障害(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder)」(略称:ADHD) と呼ばれる発達障害にカテゴライズされる症状の1つ。
詳しい症状についてはここでは省略をするけれど、特に子供達がほとんどの日常を過ごす教育社会の中では非常に身近となっている話題で取り扱いに慎重にならなければならないテーマの1つだ。本作では「授業に集中せずずっと窓の外を眺めている」「本を最後まで読めない」こうした行動を取り上げ、教師が親に「お宅のお子さんはADDだと思いますよ」と薬の処方まで勧めてしまっている。

一昔前では「そんな子いたよねぇ」で済んでいた規律性や統一性の取れない子供の行動を、いつしか線引きが曖昧な発達障害というカテゴリーに分類し取り扱い始め、平穏な集団性を構築する1つの強制的な方法として確立してしまったんだろうと感じる。

この映画を観て感じたことは、そうして大人が形成した枠組みの中であまりにも規則で縛られた平均的で量産的な教育社会構造に、果たして「個」は形成されていくのだろうかという事だった。

「大きな目的が人生を導く」

ライフルを構えるテロリストに身一つで真っ先に突撃したスペンサー・ストーン氏。
彼の人生はドラマチックなヒーロー像とはほど遠く、この映画の中では否定の社会の中で育まれた人生のように映し出される。
自由な行動を発達障害とカテゴライズされ、受験したパラレスキュー部隊の試験では奥行知覚検査に引っかかり配属の資格すら与えてもらえない。
社会のシステムの中では「不適格」のレッテル。日々の努力の積み重ねもシステムは配慮してくれるわけもなく。
ではなぜ可能性すらをも奪う社会構造の中で彼は「英雄」になる事が出来たのか。

彼自身が人生に真摯に向き合ってきた事。
温かい母親がそばにいてくれた事。
そして何より想いを通わせる仲間がいた事。
数年単位で変化する教育論や医学の常識では測れない永年変わることの無い、人として幸福である事の最小限の幸福論、そして彼自身が思い掲げてきた熱き想いの中にこそ答えがある気がします。
少なくともマイノリティを淘汰するような社会基盤の中で彼らが英雄としての資質を形成されたんだという事を描いているようには見えない。

「米兵だけがいつも英雄じゃ無いよ」と作中でもドイツ人ガイドもとあるシーンで発言します。

彼らは「人として英雄となった」
教育とは何か。突然変異的に構造が変わる事は無理だろうけれど、否定的な社会の中で自分自身を肯定的に捉える強さこそ育まれるべきだと力強く感じずにはいられない。虚像の英雄伝ではない真摯に人間性を描く素晴らしいヒューマンドラマをまた魅せられてしまった。

考察はそこそこに実際の事件の当事者である3人をキャスティングしてしまうなんて奇抜さも映画的にとてもユニークだ。

想いこそあれば成せぬ事なんて無いんだよと作品を一貫して後押ししてくれるような温かさも何度イーストウッドに教えられるんだろうか。

こんな人にオススメ

・ついつい熱中してしまう何があって他の事に手が回らなくなるんだよねというアナタ
・ヒーロー研究家
・再現VTR専属タレント

作品詳細

映画「15時17分、パリ行き」公式サイト
Filmarks映画「15時17分、パリ行き」リンク
2018年3月1日上映(2018年製作) / 製作国:アメリカ / 上映時間:94分 / ジャンル:ドラマ

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